巻頭 vol.9 2023年5月号

IB日本語Self taughtの2年間にわたる授業が終わりました。 ハンガリーのインターに通うこの生徒は「さくぶん教室」出身。最大8時間の時差授業です。こういうことが可能になったのは、コロナ禍で対面授業ができなくなって、苦肉の策でオンライン授業を始めたからです。

2000年から 12年間IB日本語の授業を担当し、今回、久しぶりに復帰して感じたことは、「読書会は楽しい」「読むたびに新しい発見があるような作品と出会うことは幸せだ」ということでした。もちろん、1回読んで腑に落ちて満足という作品も好きですが。

これまでで一番読んだ回数の多い作品は、夏目漱石の「こころ」。高校生で初めて読んだときは、こんな一人よがりな愛情じゃ奥さんはたまらないだろうな、と思った。漱石は女性が描けない、などと思いあがった感想さえ持ちました。ところが、大学生になって再読して、感想ががらりと変わった。この小説の主調は奥さんをめぐる三角関係などではなく、Kと先生の間の生と死の力学だと気づいたとき、はっと視界が開けました。その後、IBの授業のために精読してノートを作り、毎年授業が開始する前に読み、授業中に生徒と一緒に読んで、もう30回以上再読しているはずなのに、新しい発見や驚きが生まれるのです。「私という不可解な存在」の奥深さゆえでしょうか。

「ペスト」カミュ、「クララとお日さま」カズオ・イシグロ、「遣灯使」多和田葉子などは、まだ4、5回しか読んでいないので、宝箱を次から次へと開ける楽しい段階です。子どもたちの楽しみの1つに「再読」が加わってくれるといいですね。

所長 大谷雅憲

今月号のACT通信(今読んでいるこれです!)が皆さんのお手元に届く頃、日本はゴールデンウイーク半ばにさしかかっているでしょう。ACT教育ラボはオンライン授業が主なため、私個人の生活にはあまり影響はなさそうですが、なにせ観光地宮島の目と鼻の先、電車も道路も激混みしそうな予感はします。が、それもコロナが落ち着いてきて、みんなが楽しく旅行に出かけられるがゆえ。自治体をうるおす観光消費も増えて、まあいいじゃないですか(と大人の余裕を見せられるのはここまで)。

それよりも気になるのは、5月19日から三日間にわたって開催されるG7広島サミットを「盛り上げよう」とする機運です。地元のニュースによると、「G7各国にちなんだお好み焼き発売」だの「デパートで広島サミット応援フェア開催」だの「G7給食で児童の機運盛り上げ」だの、誰に向けて何をなにゆえアピールしようとしているのかが謎な企画が目白押しです。これがオリンピックやワールドカップなら分からなくもないですが、そもそも主要国首脳会議が地元市民のおもてなしによって盛り上がるものなのか(この場合の「盛り上がる」って何?)。もしや生来のお祭り好きな県民性でサミットにかこつけて楽しもうとしてる?? だとしたら、文句を言うだけヤボかもしれません。

とはいえ、期間中は県内の小中学校が休校になったり(そのぶん夏休みが減る)、宮島に観光客が入れなかったり(土産物店に休業補償はないそうです)、大幅な交通規制が敷かれたりと市民生活にさまざまな影響が及びます。それだけに広島でのこの会議が大過なく開催され、核のない世界に向けて実のある話し合いが持たれることを望みたいと思います。

代表 佐々木真美