KLクナンガン* 母のぼやき by KAYAの母
*KL memories(クアラルンプール追想)の意
地球の暮らし方B 年末スペシャル2本立て!「世界のクロサワ」&「シンタクラース」
その1「世界のクロサワ」
アムステルダムの Eyeフィルム博物館で黒澤明監督作品特集が開催されていたので、「七人の侍」と「天国と地獄」を見に行ってきました。私にとって初体験の世界のクロサワ映画、芸術的な価値や映画上のテクニックとか難しいことは私には理解できていないけど、とにかく魅了されたし素晴らしかったです。

何よりも私が感心したのは、俳優・三船敏郎の声。彼の発声は腹から出てきて喉で響き渡るような日本人らしからぬ声なのです。あくまでも私個人の頼りない経験値ですけど、英語やオランダ語話者の方が日本語やマレーシア語話者よりも三船敏郎的発声の人が多い。その結果、声が響いて大きく聞こえるんだけど、そういう人は大抵声のトーンが低いからキンキンした声ではない。こちらだと街に結構いるんだよね、三船敏郎的な魅力的な発声の人、男性でも女性でもいる。
世界のミフネの声の特徴も彼が世界のスターになった要因かもしれない、などと思いつつミフネトシロウをちょっとググってみたところ、彼は戦前の国際都市、中国・大連で育ち、初めて日本の地を踏んだのは日本陸軍による招集のためだったそう。大連で自然と備わった国際感覚が日本人らしからぬあの発声やあの独特なたくましい雰囲気に影響したのでしょうか。。。

戦前も海外で暮らしていた日本人がかなり多くいましたが、マレーの虎と言われた日本人をご存じでしょうか? マレーの虎としては山下奉文陸軍大将も有名だけど、マレーで育ちマレーを愛した日本人青年「谷豊」もまた有名です。私は『ハリマオ - マレーの虎、六十年後の真実』という本を読んだだけの知識しかないけど、谷豊もまたとびきりの美青年でマレー女性から大モテだったのだそうです。
私が読んだ本は、谷豊を直接知る人の証言で彼の足跡をそのまま辿った記録ですが、彼が如何に魅力的な人間であったかが伝わってきます。トレンガヌ州とタイの国境周辺で、若き日の彼がネズミ小僧的な窃盗団を組織していたことも、東南アジアの穏やかなイスラムの教えによる”分かち合い”に通じるものがあったのかもしれないなぁとも感じたり。。心はマレー人でありながら日本陸軍の諜報員となり命を落とした谷豊を調べると次のフレーズが本当によく出てくるのです。
”イギリス軍も日本軍も武器ではマレーシアの心を捉えられなかった。心をとらえたのは、マレーを愛したひとりの日本人だった。”
三船敏郎1920年(大正9年)生まれ当時日本の租借地であった中国・大連育ち、谷豊1911年(明治44年)生まれ当時のイギリス領マラヤ・クアラトレンガヌ育ち、戦争に翻弄された二人の日本男子のアイデンティティと人生は側から見れば対極的でもあり、似ているようでもあり。。。 (写真はマレー半島の日本軍上陸地)
「Seven Samurai 七人の侍」「High and Low 天国と地獄」この二つのクロサワ映画も、形は異なれどテーマは同じだったのかもしれない。
君たちはどう生きるか。。。

ところで、すみません突然ですが、東京で暮らす音信不通気味の我が娘へ公開業務連絡いたします。中学校の入学式で配られた「吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』」あれから7年以上過ぎたけどさすがにもう読んだ?
その2「X'masスペシャル シンタクラース」
サンタではなくシンタです。オランダ・ベルギーではクリスマスの前にシンタクラースがやってきます。彼はスペインから蒸気船に乗って、ピートという名前のお供を連れてきて、11月半ばから約3週間滞在し子供達にプレゼントを配るのだそうです。
さて、ここから先は大人向けの記事だから良い子は読んじゃダメだよ。

11月中旬に各地で同時多発的に伝説のシンタクラースが実写版で上陸してくるのですが、今年のアムステルダムには大きな蒸気船に数百人(400人との情報も!)のピートを連れてやって来ました。蒸気船を降りた後は白馬に乗ってパレード(これはどこでも定番らしい)。やっぱりリッチな自治体は演出も大掛かりなのねぇ。。
上陸後には、学校やショッピングモールなど色々な場所に彼らは出没します。しかしどのシンタクラースもレベルが高い仕上がり! さらにテレビでは、彼らが上陸する前から毎日”シンタクラースジャーナル”という子ども向け報道番組を大人たちが大真面目に放送してます。11月初旬から彼がオランダを発つ12月6日までの約一ヶ月間子供達は良い子にしていなければなりません。だって6日の朝にプレゼントが配られるんだから。もしかしてこれって大人の都合・国家ぐるみの策略なのではないかと勘繰ってしまうけど、いやいや子どもたちに長く暗く寒い冬を楽しませようとする大人の配慮なのでしょう。。。


スーパーには子供用イベントの靴箱が設置されています。本来は自宅の玄関か暖炉の前にシンタクラースの白馬のエサを入れた靴を置いておくとその中にプレゼントを入れてもらえるらしいのですが、スーパーでは紙製の靴を作って名前を書いて店頭の靴箱に入れておくと、小さなプレゼントを入れて戻して置いてくれるらしいのです。この対面じゃないけど自分で取りに行かなきゃいけない感じも私は好きだなぁ、結構テキトーでいい加減なシステム、だけど表層的じゃない大人の心意気が見え隠れしてる感じ。子どもは直感的で賢いから意外とそういうのが好きなんじゃないですかね。。。
先日あるモールで、シンタクラース&ピート軍団がカフェで座っているところに出くわし、写真を撮らせてもらいました。おそらく東洋人のおばさん(私)は自分をサンタと勘違いしていると思ったのでしょう、シンタクラース役の人が「私はシンタクラースなんだよ」と説明してくれました。私が、「存じてます、スペインから来るんですよね」と言ったら彼は『Yes, but originally Turky.』と。

その直後は、え、おじさん、じつは移民労働者のバイトって言ってる? ちょっとー、子供達の夢が壊れるわぁ。資本主義に毒された大人の会話だわよぉ、と私は思ったのです。しかし家に帰って冷静に考えてみたら、そんなことあるはずがない。そしてこっそりググったらシンタクラースの起源は現在のトルコ出身の子どもを守る守護聖人なのだそうだ。。。各地に出没するシンタクラース役のおじさん達はきびしい審査基準をクリアした無償奉仕名誉職の方達だってことも有り得る。シンタのコスプレ時給を考えること自体お下品だったのだ。。。
よこしまな大人になってしまったことを懺悔したい寒い2025年末であります。

