あじなんだより Ajinan Report vol.39

ACT教育ラボの所在地は広島県西部にある廿日市市阿品(「はつかいちし・あじな」と読みます)。「あじな」の住民になった自らを「あじなん」と名づけ、暮らしの中で気づいたこと・感じたことを報告していきます。今回は、廿日市の国際化を肌で感じつつ日本語教師がわらしべ長者化した件についてです。

私がボランティアで日本語を教えているベトナム人のHさんが、先日クラスに一人でやってきて、「私の奥さん、おなかがいたい、とてもいたい」と言うので、Google翻訳を駆使して(ダメじゃん日本語教師)詳しく話を聞いたところ、妻Aさんの腹痛がひどくて夜も眠れず、会社指定の病院でもらった薬も効かない、胃カメラ検査は予約がいっぱいとのこと。そこで、私が以前カレイの骨を食道に引っ掛けたときに駆け込みで助けてもらったT医院なら対応してくれるかもと思いつき、予約が取れたので即刻、Aさんを車で拾って一緒に出向きました。

待合室で「通訳の方ですか?」と問われ、「あ、いえ。これで」とスマホを差し示す私。ベトナム語は鋭意Duolingoで学習中ですが、今のところ「あなたのネコは牛乳を飲みますか?」ぐらいの文しか作れません。じゃあ何の付き添いなのかと問われれば、ええとまあ、運転手ですかね…。しかも! 診察室で待っていた医師は各国翻訳お任せあれのAI翻訳機ポケトークを取り出して、スラスラと問診を始めるではありませんか。すばらしい。そして私は何のためにAさんの隣に座っているのか。しかもAさんもそこそこ日本語は使えるときたもんだ。

しかし残念ながら初回でAさんの腹痛の原因はわからず。翌週、胃カメラ検査を受けることになりました。車で迎えに行くと、「センセイ、カニ食べる?」とAさん。「はい、食べます」と私は修飾語をすべて除いた、ある意味、身もフタもない“やさしい日本語”で答えます。すると、立派なワタリガニ5ハイが出現しました(写真が3ハイなのは2ハイを調理した後の撮影のため)。夫のHさんが近くの海で早朝に捕まえてきたとのこと。こんなでかいカニが阿品の近所で取れるとはびっくりです。冷蔵庫に入れた後もしばらく元気に動いていました。

その後も、病院に付き添う際に「センセイ、かぼちゃ食べる?」と問われ、うっかり「食べます」と言ったばかりに、Aさんが庭で育てたお化けカボチャをいただく羽目に(失礼!)。いやまさか、ここまでデカいとは思いもよらず。仕方がないので、とりあえずハロウィン仕様にしてみました。(うちの包丁では刃が立たなさそう。黄色い方は5.3kgあります)

胃カメラ検査後もなかなか調子が上向かず、しばらく日本語教室はお休み状態だったのですが、その間にもHさんからメッセージが来ました。「センセイ、サカナいる?」

気軽に「はい。1つ、ください」と返信したのが運の尽き(?)。これまでの人生でさばいたことのないサイズのスズキを前に、しばし立ち尽くしたことはナイショです。悪戦苦闘の末に切り出した身は鍋で美味しくいただきました。と、まるでわらしべ長者かかさじぞうの話のように、地産の頂き物が続いた十月でした。