巻頭vol.39 2025年11月号

日本シリーズとワールドシリーズが日本時間では同日に進行し、阪神タイガースとドジャースを応援している身としては野球漬けの日々が続きました。中でも大活躍したのが、ワールドシリーズ3勝でMVPに選ばれた山本由伸投手です。

 この期間、英語圏と日本語圏のネット上で話題になっていたのが「山本由伸〜言ってない語録」です。「なんとしても負けるわけにはいかないので」という山本投手のコメントを園田通訳は「Losing isn’t an option.」と訳しました。この英語をさらに日本語に訳すと「負けという選択肢はない」となってしまいます。穏やかで控えめな日本の好青年の発言が、マッチョでクールなヒーローに変貌してしまったわけです。さらにナリーグ優勝記念Tシャツにまでなってしまいました。

翻訳には大きくわけて直訳と意訳があります。直訳は話し手の言語のニュアンスに忠実に訳すことを心がけ、意訳は受け手の言語に合うように訳します。今回の発言は山本投手のコメント→英語に意訳→日本語に直訳という、変換→再変換が行われることで、「言ってない語録」が完成されました。言ってないのにプレイスタイルをそのまま表した言葉としてドジャーズファンに受け入れられ、結果的に山本投手はそれを実行してしまった、というわけです。

 僕が子どものころ、外国人選手は「助っ人ガイジン」と呼ばれ、彼らのコメントは「オレは〜だぜ」という筋肉言語調に訳されていました。今では「私は〜です」と訳されるのが普通になりました。この変化に気づいたとき、「メジャーリーガーも紳士になったな」と感じたのは誤解で、あくまでも変化したのは「訳し方」のほうだったのですね。(所長 大谷雅憲)

先月末に1週間ほどクアラルンプールに行ってきました。往路は午前中の出発便のため、関西空港近くに前日1泊した(広島からだと当日移動では間に合わないのです)にも関わらず、少しずつチェックイン時間が後ろにずれていき、結果的に3時間の遅延となって、前泊した意味が消失…。同日KLで開催されたASEAN会議が何らかの影響を及ぼしているに違いないと恨めしく思いつつ、いつまで経っても開かないカウンター前でいらいらしながら待っていたのですが、マレーシア人と思しき周りの皆さんはそれほど苛立ってもいない様子。グループ旅行の人たちは荷物係を一人置いてどこかへ行っているし、家族連れはお土産で買ったと思われるお菓子の封を開けて食べ始めたりして、すでにマレーシアな感じがあたりに漂い、肩の力が抜けました。

約1年ぶりの訪馬となりましたが、新たにデジタル入国カードでイミグレーションを通過するシステムが導入されていて、マレーシアのデジタル化のスピードにあらためて驚かされました。さらに今回はGrab利用にバスとLRT/MRTを組み合わせることで道路渋滞を避けつつ移動ができて、なかなか快適でした。マレーシアも車一辺倒の社会から変わりつつあるのかな。この国を訪れるたび、ダイナミックに変化する部分と揺るぎなく変わらない部分が独特なバランスで並立しているのを感じます。(代表 佐々木真美)

(写真はZoo Negara/マレーシア国立動物園内の猫)