巻頭vol.34 2025年6月号

広島県廿日市市にある冠遺跡群で、約4万2000年前(旧石器時代中期)の石器が発掘されたことが話題になっています。これが事実であれば、日本列島に人類が初めて到達した時代が、これまでの定説から5000年も遡ることになります。

実はこの遺跡、私がよく行く日帰り温泉や美術館のルート上にあり、渓谷沿いの道は気分転換にドライブするには最高。右の写真の奥に見える森が冠遺跡で、ルートから少し離れた丘陵地にあります。

30万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、およそ6万年前にアフリカを出て世界に広がっていきます。その頃はまだ氷河期で、東南アジアは「スンダランド」という大陸があり、ここで暮らしていた「古モンゴロイド」が最も古い日本人のルーツだと考えられています。

スンダランドから大陸を北上してきた人々が、まだ大陸と陸続きで瀬戸内海もなかったころの「日本列島」に到着して定住を始めた「始原の場所」。近くにあるカフェで悠久の時を感じながらコーヒーを飲み、温泉に寄って帰ろうという計画は、どちらも定休日で実現できなかったけれど、自分にとって、八ヶ岳山麓の井戸尻遺跡に続く「魂のふるさと」がこんなにも近いところに見つかったことの喜びに浸れた一日でした。                    所長 大谷雅憲

世の中が安定していた(停滞していたとも言えますが)時代の中で育ち、求められる点数を試験でとれば希望の大学に入れると教えられてきた世代の人間としては、5年前のコロナ禍以来、考えをあらためることしきりです。当時はどんなに優秀な学生でも他国への渡航が難しくなったため海外大学への進学を諦めたり、経済基盤が日本にある学生はその後の円安によって国内受験に切り替えざるをえなかったり。いまはトランプ米政権が留学生ビザの発給を制限しはじめて、アメリカで学ぶ予定だった世界中の学生たちはどこへ向かうのだろう、と日本の地方都市でわずかな数の生徒を抱える私でも考えざるをえません。おそらく海外生の皆さんは、世界の動き(というかトランプ大統領の言動)が自分の受験と直接連動していることにあきれ、かつ困惑していることでしょう。

こんな混迷の時代だからこそ、自分自身の方向性を見つめてほしいと思います。LGBTQの人権問題にパッションが掻き立てられると語った生徒はICUに入学し、自分と同い年ぐらいのストリートチルドレンに胸を痛めた生徒は開発経済学を学ぶ道に進みました。世の中がどう変化しても、「自分のテーマを追求すること」が受験にも、その先の人生にも実りをもたらすと私は考えます。  代表 佐々木真美