巻頭vol.33 2025年5月号

IB(国際バカロレア)認定校が日本国内でも増え、入試選考でIBの成績を採用する大学が増えてきています。私が住む広島県でも、大崎上島にある全寮制の県立叡智学園高校が初めてのIBDP卒業生を出し、彼らの進学先が話題になっています。

私がIB日本語に関わり始めた2000年代、日本ではIBの成績を評価できる大学が少なかったため、日本の大学を志望する受験生は、あえてIBフル・ディプロマを選択せず、日本語の思考力と表現力をつけるためにI B日本語を単科で受講することが多かったように記憶しています。その時に私が選んだ文献リストはこんな感じです。

エッセイ・評論「私の個人主義」 「現代日本の開花」(夏目漱石)/「東洋の理想」(岡倉天心)/「柔らかい個人主義の誕生」(山崎正和)

文学作品「こころ」(夏目漱石)/ 「沈黙」(遠藤周作)/「野火」(大岡昇平)

数年前、Self-taughtで選んだのはこんな感じです。

・翻訳された外国文学「ペスト」(アルベルト・カミュ)/ 「道徳教」(老子)/「クララとお日さま」(カズオ・イシグロ)

日本文学「万葉集」/「こころ」(夏目漱石)/ 「宮沢賢治詩集」/芥川龍之介短編「トロッコ」「羅生門」「地獄変」「桃太郎」/「沈黙」(遠藤周作)/「献灯使」(多和田葉子)

こちらも「日本人としての教養とは何か」を意識して選びましたが、「世界を言葉で捉えることの可能性/不可能性」という共通点があります。

 いずれにしても、イギリス人にとってのシェイクスピア、ドイツ人にとってのゲーテに該当する作家は、日本人にとっては夏目漱石だろうというのが、今のところの私の結論です。日本人としての教養を身につけたいと考えている中高生は、この文献リストを参考にしてください。  所長 大谷雅憲

 

冬の海に浮かんでいたカモが編隊を組んで北に去り、ツバメが軒先をかすめ飛ぶ季節になりました。日本はゴールデンウイークです。この大型連休について、ボランティアの日本語教室で私が担当しているベトナム人学習者に説明したところ、彼らの国でも4月末から5月初めにかけて連休なのだと教えてくれました。

5月1日のメーデーは多くの国で公休のため(マレーシアもですね)なるほどと思うだけだったのですが、では4月30日のお休みは何? と訊ねると、なぜか声を低めて「戦争が終わった日」「アメリカに勝った」と。この日本語教室にはアメリカ人の学習者もいるので、気をつかって小声になったようです。たとえかつて敵対した国の人間であっても、同じ場所に居合わせた以上、互いが不快にならないようにとふるまう姿に気持ちが温かくなりました。外国や外国人について考える際には、国ではなく、人を見ることを忘れないようにしなければと教えられた気がします。

今年はベトナム戦争終結から50年、日本は終戦から80年です。戦争の日々が遠ざかるのは素晴らしい。一方で、平和をしっかり手離さずにいることにも意識的でいたいと思います。             代表 佐々木真美