巻頭vol.32 2025年4月号
落語家・桂米朝の持ちネタに「どうらんの幸助」というものがあります。導入部分にこんな会話があります。
(道で出会った二人)
A:おい、何してんねん
B:……立ってんね
A:立ってんのはわかってるわいな。立って何してんねんちゅうねん
B:立って、……立ってんねん
(『米朝コレクション6』桂米朝 ちくま文庫)
上方落語の魅力については別の機会にゆずるとして、「AI的思考」を考えるときに思い出すのが、この会話です。ふつう道で出会って「何してるの?」と聞くのは、「仕事の帰り」とか「散歩」とか、「あなたがそこにいること」の理由が知りたいから。でも、理由なく生きているBは「立っている」という状態しか説明できません。言動に意味や理由を求める人間と意味のない言動とのズレに笑いが生まれます。
生成AIの思考はBに近いようです。人間は因果関係(原因―結果)によって「世界」を理解しようとしますが、AIは相関関係という別の思考法で世界を捉えます。「なぜ」と聞かれると「なぜなら〜」と返すのが人間の思考。「だって、そうじゃん」と返すのがAIの思考。これまでなら、「ちゃんと理由を考えろ」と怒られる(笑われる)答え方ですが、AI時代になると、むしろ、「質問の仕方が適切ではない」と、質問者Aの方が笑われるかもしれません。
実際にChat GPTならどう対応するのかやってみましょう。Oが大谷、GがChat GPTです。
O:何してんねん。
G:なんもしてへんで。そっちは何してんの?
O:立ってんねん。
G:立ってんのかい! 何で立ってんねん。修行中か?
O:立って……立ってんねん。
G:うおお、まさかの名シーンの再現か!? 「立った……、クララが立った!」みたいなテンションやん。なんかあったんか?
完璧な関西弁で返されるだけでなく、瞬時に立場が逆転。さらに、『アルプスの少女ハイジ』につなげるセンス。そして、最後に、心配までされてしまいました。完敗です。
所長 大谷雅憲
四月になり、広島でも桜の満開宣言が出ました。とはいえ、今年は昼夜の寒暖差がやたらと激しく、まだまだ気が許せません。そこで新しくできた習慣が朝の気温予報チェックです。
目が覚めると、まずふとんの中からスマホに手を伸ばし、今日一日の気温の変動を確認します。それをもとに朝一番に着る服を考え、外出予定のある場合は何を足すか(または減らすか)、出かける先は暑いのか寒いのか、風は冷たいのかそうでもないのか等々、さまざまな気象要素を組み入れて、その日の着衣計画を立てます。そこから、ふとんを抜け出し、最速で衣類を身につけて、ようやく一日がスタート。
マレーシアでの二十数年間、朝ふとんを出るまでにこんなに頭を使った覚えがなく、起きたらテキトーにそこら辺の服を着ていればよかった暮らしが懐かしい。と同時に、日本の生活における天気予報の重要さを実感しています。
代表 佐々木真美
