あじなんだより Ajinan Report vol.27

ACT教育ラボの所在地は広島県西部にある廿日市市阿品(「はつかいちし・あじな」と読みます)。「あじな」の住民になった自らを「あじなん」と名づけ、暮らしの中で気づいたこと・感じたことを報告していきます。今回はヤモリ考。日本でもマレーシアでも、気づくとなぜかそこにいるアイツについての、とりとめのないお話です(いつもか…)。

日本に戻って三度めの夏が去っていきました。秋の訪れとともに日没時刻が早くなっていく速度にはまだ慣れませんが(午後6時に戸外に出ると周囲が真っ暗でぎょっとします)、春夏秋冬を約3セット過ごして、「四季=1年」の時間感覚がなんとなく戻ってきました。

わが家で夏を感じさせてくれるものの筆頭は、夜に台所の窓ガラスに外側から貼りつくヤモリで、彼らの姿を見なくなると、秋の深まりが感じられます。この二年余りの観察では、春から夏にかけて気温が上がりはじめると、晩ご飯の支度時間に合わせるかのように窓ガラスに白い影(と吸盤)が出現。電灯の光に寄ってきた虫を捕食するために出てくるのでしょう。気温が下がりはじめ、対岸の宮島の紅葉が進んだなあと思う頃、気づくと姿がなくなっています。

ところが今年は11月初日の冷たい雨の降る夕方、晩ご飯の支度をしようと台所のあかりをつけると、例の白い影が浮き上がるではないですか。気温は20°Cを下回っています。今年は10月末まで暑さが続いて各地で桜が狂い咲いているとのニュースもあり、ヤモリの生活にも影響が出ているのかも。突然のこの寒さ(長年のマレーシア生活が染みついた身に18°Cは「寒い」の部類)で、大丈夫なのかとなんだか心配になります。しっぽ、切れちゃってるし。

そこで調べてみたところ、ニホンヤモリにとってちょうどいい活動温度は18~25°Cとのこと。あ、ギリギリ大丈夫なんだ。それより夏の間の35°Cの方がキツかったのね…。寿命は平均10年(意外と長い)だそうで、私はてっきり毎年異なる個体が出現しているのだと思っていましたが、この間ずっと同じヤモリを見ていたのかもしれません。

マレーシアではあまり密閉性のない部屋に住んでいたせいか、家の中でよくヤモリを見かけました。天井近くに貼りついて、チッチッチッと鳴く声に「なるほど、だからマレーシアではcicak(チチャ)と呼ぶのか」と納得。となると、gecko(ゲッコー)と呼ぶ地域では「ゲコゲコ」と鳴くのかと思ったら、そういう説がありました。早速YouTubeでオーストラリアのヤモリの鳴き声を聞いてみましたが、私にはやっぱりにチッチッチッに聞こえたなあ。犬の「ワンワン」「バウワウ」同様、イモリの鳴き声もその土地の人間の耳にそう聞こえるということですかね。

2006年のマレーシア映画に、ハリウッドの『スパイダーマン』にインスパイアされた(のか? マレーシア風な味付けでパロディにした)『チチャマン』という作品があります。ヤモリだけに天井や壁に張り付くことはお手のもの、でもヤモリだけにそれほど立派なことはできない、そんなヒーローが気がついたら悪に立ち向かう羽目に陥り…というコメディ。近未来SF なのだけど、現代マレーシアの世情が笑いと共に反映されていて、なかなかの傑作だと思います。