巻頭vol.25 2024年9月号
今住んでいる場所をはじめて訪れたとき、自然が豊かな素敵な場所なのに、なぜか変に不自然な感じがしました。そのときの「感じ」は、航空写真で見ると伝わるかもしれません。右の写真は1988年に撮影されたものなので、現在とは大きく異なっていますが、海沿いに埋立地が二つ並んでいることがわかリます。埋立地の下(南)の部分は私たちが住む住宅地で、この辺りはあまり変わっていません。
埋立地の上(北側)は、かつて広島ナタリーという遊園地があったそうですが、1996年に閉園。
埋立地の左側には国道2号線、広電宮島線、JR山陽本線が並行して走っています。跡地は遊園地の象徴であった帆船「ナタリー号」の名前を引き継いだショッピング・モールとマンションが建っています。→
→つまり、三方は海(堤防)で囲まれ、一方は線路と国道で遮断された「出島」の中に住んでいることになります。南の角の線上には厳島神社の鳥居が見えます。
車もほとんど通らず、釣り人や犬と散歩する人以外の気配はほとんどない、時間の止まったような静かな世界で、野鳥や海を泳ぐ魚の群れやエイたちと共に過ごす「出島」。たまにはそこを抜け出さないと透明になってそのまま消えてしまうのではないかと思うときもあります。
所長 大谷雅憲
今月号の『KL Kenangan母のぼやき』で触れている童話『フランダースの犬』。小学生の頃、テレビアニメで見て、画家を夢見る貧しい少年ネロと彼の愛犬パトラッシュの、生物の種を超えた固い絆に憧れたものでした。物語では、クリスマスの夜にネロはひと目見たいと憧れ続けた絵画を見ながら命尽き、彼に寄り添うパトラッシュと共に天に召されてしまうのですが(悲しい…)。
そこから犬に関する記事をうろうろとインターネットで見始めて、「犬の始球式」の見出しにぶつかりました。MLBドジャーズ(母音の後なので「ス」ではなく「ズ」と濁るby 英語教師)の大谷翔平の愛犬が始球式の投手を務めた(実際には球をくわえて走った)ニュースです。「そりゃウケるに決まってる。球団も商売上手だわね」と憎まれ口を叩きながらもビデオを見てしまう私。…いやもう、デコピンかわいかった。一心に飼い主に向かって駆けていく姿に犬ならではの健気さを感じます。それが貧しいネロ少年だろうが大スター大谷翔平だろうが、犬にとって飼い主は唯一無二の存在なんでしょうね。
マレーシアにいるとき、KL市内のアニマルシェルターに数日間そうじとエサやりの手伝いに行ったことがあります。作業の合間にぼんやり犬たちを眺めていると、こちらの勝手な思い込みではあるのですが、犬たちから「あなたが次の飼い主になってくれるの?」と見つめ返されている気がしたものです。そんな思い出にひたるうち、私の心のベストムービー『Hachi』(忠犬ハチ公の話を翻案したアメリカ版です)がまた見たくなりました。
代表 佐々木真美