巻頭vol.21 2024年5月号

2年前に買ったスマートフォンは、1年ほどでカメラのピントが合わなくなりました。ぐずぐずしているうちに1年が経ったので、修理ではなくてコンデジを買うことにしました。

デジカメを「コンデジ」と呼ぶようになったことを最近知りました。それほど流行に疎い者が最新のコンデジを手にしてしまったわけです。スマホの画像で十分に満足していた者にとっては「猫に小判」です。

ちょうど桜のシーズンだったので、最初は桜を撮りました。だんだん庭や道端に咲く、スミレやカラスノエンドウ、タンポポ、ハナニラ、ムスカリなどに目が向くようになり、植物の名前を知るようになりました。

僕が住んでいるところは海にも山にも近いので、住宅地なのに鳥の種類が多いことには気づいていました。僕の鳥の知識はカラス、トンビ、ハト、スズメ、ツバメ、鴨、カモメあたりをなんとか識別できる程度です。それが、コンデジを持って鳥を意識的に観察するクセがついたことで、アオサギ、コサギ、ハクセキレイなどが「見える」ようになりました。

マレーシアに住んでいたとき、2年間で6匹の猫をたて続けに保護したことがあります。猫に興味を持つことでそれまで見えていなかった猫が「見える」ようになったのです。世界は「見ようとしなければ見えない」のかもしれません。     

所長 大谷雅憲

日が伸びて海からカモの姿が消えたなと思ったら、軒先をツバメがかすめ飛びはじめました。町中を見わたすと、スーパーマーケットや病院などの大きな建物の入り口付近にけっこうな割合でツバメの巣がかかってます。その巣の下には必ず手作りのフン除けが設置してあり、「ちょっと迷惑だけど、とりあえずヒナの成長を見守るか」という人間の気づかいが感じられます。もっとも鳥獣保護管理法で巣の撤去が制限されているという事情もあるとは思いますが。

ツバメたちがやってくるのはフィリピンやベトナム、マレーシアなど東南アジアから。マレーシアと聞くと、思わず「遠いところ、よく来たな」と声をかけたくもなります。はるばる日本に渡ってくるのは春から秋にかけてエサとなる昆虫が豊富で、かつライバルとなる他の鳥類が少なく、産卵・子育てに適しているためだそう。たしかにツバメの巣には、いつでも必死に口を開けて親鳥から食べ物をもらっているヒナの姿がありますよね。

あのヒナたちがエサを飲みくだす様子から嚥下(燕=ツバメという漢字に口偏がついている)ということばができたという説があります。ちなみに英語でツバメはswallow、飲み込むという動詞もswallow。風土も言語も違う場所で、似たような発想が生まれたのだとすると、人類特有の思考の癖なんてものがあるのだろうかと気になります。

代表 佐々木真美