あじなんだより Ajinan Report vol.18

ACT教育ラボの所在地は広島県西部にある廿日市市阿品(「はつかいちし・あじな」と読みます)。「あじな」の住民になった自らを「あじなん」と名づけ、暮らしの中で気づいたこと・感じたことを報告していきます。今回は地元のお題はお休みして、英語の先生らしく、気になる英語表現について。それは、Don’t worryに続くあの…

I am wearing…PANTS!

昨年、日本のお笑い芸人「とにかく明るい安村(TONI-KAKU)」がイギリスのオーディション番組Britain’s Got Talentで大ウケしたネタで発するこのセリフが二重の意味で気になります。いや、文法にまちがいがあるとか、単語の使い方がヘンだとかではなく、そもそもの英語表現に引っかかるところがありまして。という訳は…

英語の動詞には大きく分けて2種類あり、1つは動作を表すものeat, run, singなど、もう1つは状態を表すものknow, like, needなど、と習いました(てか、そう教えています)。前者は動作なので目で見て進行中とわかり、eating食事をしているところ、 running走っているところ、 singing歌っているところ、という形にすることができる。しかし後者は外から見てわかるものではなく、knowing知っているところ、liking好きである最中…などの進行形にはならない(動名詞としてのing形はある)。では、wearはどうなのか。

「着る/身にまとう」という日本語に対応させて考えると、「着ている最中」という言い方はあります。でもそれは、シャツに袖を通している途中とか、靴下に足を突っ込みつつある瞬間とかを指しているので、英語にするとputting onで表現されるもの。しかし、“I am wearing pants!” は、「今まさにパンツに足を通しているところです」ではなく、「すでにパンツを身につけている状態です」の意味。でなければ、 “Don’t worry”とは言えません。するとwearは「着る動作」を表すのではなく、「着ている状態」を表す動詞なのだから、ingがつくのはおかしいのではないか。

この疑問に対して、「身につける」のは「脱ぐ」ことによって終了する一時的な行為だからingをつけるのだという説がありますが、knowでもlikeでも忘れたり好きじゃなくなったりすることもあるわけで、どんな行為も一時的と言えなくはなく、いまいち説得力に欠けます。日本語話者としては理解しにくい、それだけに英語独自の世界観が垣間見える表現のような気がします。生徒から同じ疑問をぶつけられたら、「慣用だから」と答えるとは思いますが。

もう一つはpantsです、パンツ。かつて日本人にとってパンツといえば下着一択でしたが、1990年代にアメリカ風にズボン(これ、準死語だそう)の意味が加わるようになり、今ではアパレル関連でパンツといえばほぼこの二股筒状ボトムスを指す、アメリカンな状況です(アメリカ英語で下着のパンツは「アンダーウェア」)。とはいえ、家庭内では依然として下着を指す用語として使用されているとは思いますが、皆様のご家庭ではどうでしょうか。一方、イギリスではパンツはちゃんと(?)下着の意味として使われているので、このセリフが成立するわけです。“I’m wearing underwear.”では、なんだか勢いが出ませんもんね。

いわゆる裸芸というものは好きではないのですが、TONIのセリフ “Don’t worry, I’m wearing…”に続いて、 “PANTS!”と楽しそうに叫ぶイギリス人審査員を見ると、ま、これもアリか、と納得してしまうのでした。