あじなんだより Ajinan Report vol.16
ACT教育ラボの所在地は広島県西部にある廿日市市阿品(「はつかいちし・あじな」と読みます)。「あじな」の住民になった自らを「あじなん」と名づけ、暮らしの中で気づいたこと・感じたことを報告していきます。第16回は魚の骨に費やした一日の顛末。先月の骨折といい、なんだか「骨難」が続く秋です。
二週間ほど前、カレイの煮付けを食べていて、うっかり骨をのどに引っかけてしまいました。痛ててて〜。「ご飯の丸飲みで骨を押し流す策」が一瞬頭に浮かびましたが、さすがにそんな昔ながらの迷信じみたやり方がいまだに有効とも思われず、あわあわとスマホで検索したところ、案の定、「危険なので絶対やっちゃダメ」との記事が多数出てきました。セーフ。無難な解決法は「耳鼻咽喉科に行って取ってもらえ」ということで、翌朝いちばんに駆け込みました。
そこでまず聞かれたのは、「何の魚を食べたの?」
ウチの昨晩のおかずをなぜここで公表せねばならないのか不審に思いながらもカレイだと告げると、医者は「鯛でなくてよかったねぇ」と。曰く、鯛の骨は硬くて、引っかかると、のどや食道を傷つけて化膿させることもあり、大変危険なんだそう。一方、イワシなどの小さな骨だと自然に取れたりもするが、カレイは危険度でいうとその中間あたりとのこと。さすが魚食の国の耳鼻咽喉科はのどに引っかかった魚の骨の特徴にまで詳しい。あとはピンセットか何かをのどに突っ込んでチョイと取ってもらえば解決だわ、と楽観したのでしたが…。
医師の目視では見当たらず、内視鏡を鼻から入れて捜索するも、それらしきものは見つかりません。結局、「魚の骨のありかは耳鼻咽喉科の守備範囲よりも奥にあると思われるので、消化器内科で診てもらってください」と紹介状を手渡され、別の病院へ送り出されました。
次なる消化器内科では先の医院から連絡が行っていたため、医師はすでにカレイの骨が引っかかっていることを知っています。そこで、手短に治療方針の説明をしてくれたのですが、その表現がなんとも独特で。
「麻酔が効いている間に胃カメラで骨を取りに行きます!」「もし骨が大きすぎたら一度戻ってきて、別の道具に変えて取りに行きますから!」
「取りに行く」だとか「戻ってくる」だとか、まるで医師自らが私の食道に入っていくかのようで、ちょっと笑いたくなってしまいました。それじゃ『ミクロの決死圏』だよ、先生…。
あ、説明が要りますね、はい。『ミクロの決死圏』とは1966年公開のアメリカのSF映画で、極小(マイクロ=ミクロ)サイズになった医療チームが人体に入り込んで治療を行うというストーリー。一時間しか極小でいられないのにリンパ液に押し流されたり血小板に攻撃されたりと次から次へ難問が立ちはだかる、手に汗握る展開のアドベンチャー&サスペンス映画です。大ざっぱにいうと、『はたらく細胞』の世界で極小人間チームが病巣と戦う、みたいな感じでしょうか。
五十年前には荒唐無稽と思われた設定ですが、今はそれがある意味、現実化しています。人間のマイクロ化は進んでいないにせよ、人体の内側を目で見て診断し、極小な器材を使って治療を行う世界が出現しているのです。そう考えると、人様から「何、夢みたいなこと言ってるの。」と呆れられるぐらいの想像力(妄想と言ってもいいかもしれません)を持つことが、世界を変える一歩めになるのかもしれませんね。