KLスカラン  by KAYA

複眼で見るマレーシアA面 第6回「Raj先生」
1つのトピックに母娘それぞれの視点で迫るコラボレーションコラム

*スカラン(sekarang) :マレー語で「今」の意

私がまだマレーシアに来て間もない頃、コロナ禍で学校の授業は全てオンライン授業だったため、英語を聞き取れても話すことが今以上に下手くそでした。なのでスピーキングを伸ばすためにも、母が英語の塾に「おしゃべりな先生をお願いします」と頼んで通わせてくれました。今日はそこで私の先生だった、Rajというインド系マレーシア人の方のお話しをしたいと思います。(今回はもはやこの先生の記録に近いです。)

まず、プロフィールとしては、20代半ば、マレーシアのHELP University(金持ち大学?)からアメリカのナブラスカ大学に三年間留学、大学卒業後はパイロット養成学校に通って飛行機の操縦ライセンスを取得。Air Asia(マレーシア・周辺諸国で超人気の格安航空会社)に内定をもらっていたらしいのですが、コロナのせいでパイロットの需要が小さくなってしまい、それが回復して会社から連絡が来るまで塾の先生として小遣い稼ぎをしていたみたいです。一年もマレーシアの大学に行かないなら最初からアメリカに行ったほうがいいじゃないとかと聞いたら、本人曰くアメリカの大学にそのまま入って高い入学金と学費を払うよりも、圧倒的に割安なマレーシアの大学に入ってアメリカの大学に留学した方が本来死ぬほど高い学費が安いままで抑えられるのでかなりお得でいい作戦だと言っていました。ちなみにイギリスのオックスフォード大学にも何ヶ月か行っています。ほぼ観光だったらしいけど。理系で数学がメジャーだったので、英語の先生という体でしたが、よく数学を教えてもらってました。

祖父、父、Raj、三世代全員パイロットで、パイロットの旨みを色々聞かされました。お祖父さんがマレーシアに移民として渡ってきて、raj本人はインド系シーク教徒マレーシア人三世です。(マレーシアでは普段移民〇世という概念はあまり存在しないですが)シークとは日本ではあまり聞かない宗教かもしれないですが、インド北部(特にパンジャーブ州)で普及している宗教でとにかく体の強い人たちが多いことで有名です。だから歴史的に見てもマレーシアに移住してきたシーク教徒は政府の警察官や警備員として来た人が多いらしい。日本での知名度も低いし、マレーシアでもイスラム教・仏教・ヒンドゥー教が強すぎてシーク教徒比率はかなり低いけど、一応四番目に信者の数が多い(世界だと五番目で約2400万人)宗教としてコミュニティーや寺院もたまに見かけます。ヒンドゥー教にイスラム教の要素が取り入れられてるのが特徴的で、コトバンクによると「唯一の神を信じて偶像崇拝を禁じ、カースト制度を否定。いかなる階層・職業のものも、神との合一によって解脱(げだつ)が得られるとした」とあります。一言で表すと、みんなに平等で優しい。素晴らしい教えだなと心底思います。Rajもよくシーク教徒であることが誇りだと言っていました。でもその教えに沿ってイスラム教、ヒンドゥー教どちらの味方もし助けの手を差し伸べるため、パキスタン(イスラム教国家)との国境があるパンジャーブ州では、その二つの勢力に板挟みされてどちらからも良く思われていないそうです...。言い方が悪いですが、どちらにもいい顔をしながら平等に生きていくことは難しいですね。学校でも、クラスメートがいじめられていて、自分はいじめたくなくてどちらにも良い顔をしているのと、最終的に自分もいじめられてしまう状況に似ている気がします。規模は違えども、自分の正義を貫くことは本当に難しいし、楽な方に屈しずに全員に優しい姿勢を取るシーク教徒は本当に尊敬に値すると思います。

先生なのに、綺麗事とか先生らしい発言を全く言わない人でした。すごく正直にモノを言います。例えば、こんな発言...。

  • Astro(CSやWOWOWのもっとポピュラーバージョン)をサブスクしている人たちはバカだ。(もっと安い料金で色々なものを見れるサービスがあるらしい)ただ色々な人たちがネットで個人が好きなものを好きなだけ見る時代になってしまったのは悲しく感じているみたいです。自分が子供の頃はastroでバーフバリ一挙放送が定期的にあり、早朝まで家族で見て、終わった後近所で感想を言い合うのが好きだったそう。
  • マハティール(マレーシアの超大物政治家、生きた吉田茂みたいな)は前は好きだった。今は嫌い。好き嫌いの周期が数年ごとにあるらしい。
  • ドヤ顔でMy Malay is very good!(俺マレー語めっちゃ得意)
  • Natural salt。rajが前教えていた生徒がママックというマレーシアの国民的食堂が不衛生で嫌いだと言っていたらしい。ロティ(インドのパンケーキ)をこねるときに店員の汗が混じってそうで嫌だと。私がでもちゃんと焼くからいいじゃんと返したところ、そうそうお前はよくわかっているぞ、その汗に混じっているnatural saltが隠し味で、それがロティを美味しくしているのだと熱弁していた。もちろん半分冗談で。
  • 私が何か用事があってクラスを直前に欠席したところ、塾のマネージャーの方にそれは困ると話したらしい。でも翌週雨が激しくて家から出れない、今日のクラスはキャンセルだと直前にメールが来ました。人のこと言えないじゃん。(ちなみにマレーシアで使われる遅刻・欠席の理由は大体渋滞か雨です。雨は想像以上に重要です。)
  • マレー語なんか深く習う必要がない。マレーシアでは数字と食べ物さえマレー語で言えれば暮らしていける。なのにマレー語話せると得するぜと自慢してくる。     Rajはマレー語を使う学校で勉強していたので、パンジャビ語も喋れるし読み書きもできるけどそこまで得意じゃないらしいです。(マレーシアでは主にマレー語、中国語、タミール語を公用語として使う公立校がそれぞれ存在している。パンジャビ語で教える学校も珍しいけど何校かはあるらしい。)
  • F1の話を執拗にしてくれました。かなりつまらなかったですが、マレーシアの国営燃料会社Petronas所属のすごいレーサーがいることを知りました。ちなみに、その人のサインをもらうために真昼間35°Cの炎天下の中3時間友達と待ち伏せしていたそうです。そのレーサーも結構迷惑だったと思います...。

いわゆる多くの人がイメージする先生とはかけ離れているただのお兄さんでした。英語の宿題もかなりテキトーです。1日一本映画を見ているとのことだったので、おそらく相当暇なんだと思います。でもシークという宗教があったり、マレーシアのことをたくさん知れたり、人間的にもかなり面白い人で授業はいつも楽しかったです。今は空をたくさん飛び回ってるのかな?