あじなんだより Ajinan Report vol.13

ACT教育ラボの所在地は広島県西部にある廿日市市阿品(「はつかいちし・あじな」と読みます)。「あじな」の住民になった自らを「あじなん」と名づけ、暮らしの中で気づいたこと・感じたことを報告していきます。第13回は「海が涌(わ)く」。いや、暑さで海水が沸いてるわけじゃなく…。

日本は暑い日が続きます。ここ阿品でも日中は35℃、36℃と容赦ない気温になり、目の前の海に飛び込みたい衝動に駆られます。そのため散歩の時間が日に日に早まり、ついに午前5時台になってしまいました。まだ少し涼しい空気を感じながら海岸沿いを歩くと、日が昇りはじめ、海に朝焼けが広がります。一面オレンジの時間はあっという間に終わり、そこかしこでセミがけたたましく鳴きはじめ、こうして夏の一日が始まります。

今朝は海岸に出ると、今まで見たことがないほどの数のカモメやらサギやら他にも名前を知らない鳥たちが海上を旋回していました。「鳥も日中は暑いから早朝にごはんかな」などと、のんびり眺めていると、海面のあちこちが黒ずんでいる。目をこらすと、そこだけ小さく泡立っているようにも見え、それが少しずつ位置を変えていっている…。怪奇現象か?! 

たまたま居合わせた人生の大先輩(この時間帯は高齢者のお散歩タイムなのです)に尋ねると、「あー、あれは小鰯の群れじゃ。昔はこの岸から網ですくったんよ」。

小鰯(コイワシ)とはカタクチイワシのこと。広島の誇る、刺身にしても唐揚げにしてもおいしい夏の味覚です。そのとき、思い浮かんだのは「海が涌(わ)く」という表現。なんだっけな?と帰宅後、調べたところ、福岡県の漁師ことばで魚群が海面に集まる様子を表しているそう。なるほど、まさにそんな感じです。

それからなぜか一篇の詩を思い出しました。

大漁  金子みすゞ(みすず)

朝焼け小焼だ 大漁だ

大羽鰮(オオバイワシ)の 大漁だ。

浜は祭りの ようだけど

海のなかでは 何万の

鰮のとむらい するだろう。

あの詩は大羽イワシを歌ったものでした。初夏から地元のスーパーにお手頃価格で並ぶ、脂の乗った大羽イワシ。…私と金子みすゞとの隔たりは無限大なようです。