巻頭vol.12 2023年8月号
行き先を決めないで車で旅行をしようと思い立ち、7月31日の朝に廿日市を出発しました。初日は呉、尾道を経て鞆の浦へ。ここは映画『崖の上のポニョ』の舞台になった古い漁港です。時間が止まったような町の佇まいが気に入って宿を探しましたが、どこも満室。しかたなく、と言っては失礼ですが、福山駅前のビジネスホテルになんとか泊まることができました。
翌日は、福山城を散策してから、しまなみ海道へ。今回の旅で唯一行き先として決めていた向島・因島・生口島・大三島・伯方島・大島を巡るのが目的です。中でも大三島の大山祇神社と大島の村上海賊ミュージアムに行って実際にその地に立てたことに感動しました。大山祇神は南九州の先住民族である隼人族が信仰する神で、隼人族は海洋民族の特徴を持っています。彼らはマレーシアやインドネシアから海を渡って日本にやってきた古モンゴロイドだといわれていて、その神が瀬戸内の海民の神として崇められている。海民の移動の足跡を目の当たりにした感じです。村上海賊ミュージアムは能島村上水軍の本拠地である能島を間近に見ることができました。周囲の海域はうず潮が巻く難所です。たまたま寄ったガソリンスタンドのおじさんにベストスポットを教えてもらいました。この日は道後温泉泊。
3日目は愛媛県を海沿いに走って佐田岬の三崎港へ。そして今、大分に向かうフェリーでこの原稿を書いているというわけです。九州と四国の間をたった70分で渡れる海の道があることを実感しています。
行き先を決めない旅は人間の感覚を鋭敏にします。その場の直感で次の行動を決める快感がそこにはありました。
所長 大谷雅憲
1945年8月6日に広島に原爆が投下されて今年で78年。かつて母から原爆投下直後の広島市内の様子を聞いたことがあります。校庭で死体を積み上げて燃やしていたこと、救護所で横一列に並べられた火傷だらけの人々など、その陰惨な光景を想像すると夜眠れなくなるほどでした。また、当時小学生だった母は大人たちから、「今回投下されたのは特殊爆弾だから広島には“60年間、草木も生えぬ”そうじゃ」と聞かされたそう。でも二週間もするとペンペン草が生えてきたのを見て、「それまで大人の言うことは絶対だと信じてきたけど、大人もたいして当てにならんと思ったよ。」
経験を語り継ぐことは大切です。でも、経験値に頼りすぎるのは危ない。「これまでそうだったから、これからも同じ」とは言えない時代になったのだと思います。社会のあり方にしろ、災害にしろ、対処の仕方は自分で考え、自分で判断する。その際、必要なのは、逆説的なようですが、先人たちがどんな時代の中で何を考え、何を成してきたのかを歴史から学ぶことなのだと思います。
代表 佐々木真美