さくぶん道場 第176回
「100年後の人々に残したいもの」 大谷雅憲
4月29日の「さくぶん教室」では「100 年後の人々に残し たいものと残したくないもの」について考えた。授業案を考えるにあたって、Chat GPTの力を借りることにした。Chat GPT はぼんやりとした当たり障りのないものを10個挙げてきた。まあ、予測の範囲内だ。
10個全てが「記録」と「資料」。データがあれば 100年後に文明が滅びても、残った人類がAIを活用 して文明を復活させることができるってことか。人類が全滅してしまった世界を舞台に、科学少年と彼の仲間たちが科学の力を使って文明を復興するというマンガの「Dr. STONE」みたいだ。
こうしたときには、発想の転換が必要だ。Chat GPTに鋭い回答をさせるには「問い」の工夫が必要になる。 これは、僕たちがあるテーマについて考える場合でも同じで、「100年後の人々に残したいもの」について具体的なイメージが持てないのであれば、イメージが持てるような「問い」に変えて見るといい。 そこで、次のように問いを変えてみた。
「百年後にはなくなってしまうと考えられる物や文化、技術、考え方を10個挙げて」
Chat GPTの回答
- 紙媒体の書籍や新聞
- ガソリン車
- 現金決済
- テレビ放送
- CD や DVDなどの物理メディア
- 観光地の自然や風景
- 現代の建築物や都市景観
- 人類が使っている言語
- 現代の科学技術
- 人類の価値観や考え方
この回答について生徒と検討してみたところ、「かなり控え目な予測ですね」いう感想が返ってきた。確かにそうだ。僕の場合、本は紙にこだわっているけれど、新聞やマンガは電子版で読んでいる。ガソリン車は近く EUで禁止されるし、EV 車や水素エンジンなどすでにガソリン車に代わる時期にきている。コロナ禍で現金主義の強い日本でさえキャッシュレス化は進んでいて、日本に帰ってから現金で支払いをしたことは数えるぐらい。テレビは 2〜3時間続くバラエティばかりで、しかもCM が多い。CDやDVDも大量に持っているのに同じ音楽や映画をネットで視聴している。100 年後になくなるものではなく、すでに現在進行形でなくなりつつあるものばかりだ。
科学技術の中に量子コンピュータの例があった。これも今年の3月に国産の初号機が完成している。実用化にはまだ時間がかかりそうだが、さすがに100年後 というタイムスパンではないだろう(ちなみに、量子コンピュータは現在のスーパーコンピューターの9000兆倍の処理能力があるそうだ)。
100年後のことを考えていくうちに、ここ10年の変化の凄さに驚いてしまった「さくぶん教室」。おそらくいま、AIや生命科学の分野でシンギュラリティ(技術的特異点)に到達しつつあって、世界のあり方、人間のあり方ががらりと変わる節目に僕たちは立っているのではないかということに気づいて、思わずため息をついてしまったのであった。
気を取り直して、100年前の日本人にとっての100年後の世界の予測を調べてみることにした。
・大学全入時代が来て、教育費が無償化される→残念ながら外れ。
・漢字が廃止され英語が公用語になる→ 外れではあるが、英語が公用語の企業や英語で授業をする大学が増えている。
・太陽光エネルギーを活用して発電し、その電力を貯めておく「貯電」ができるようになっている→貯電はまだだが太陽光発電を予測したのはすごい。
・「蓄音蓄影装置」と「離身電波」→100年前の日本人の想像力はすごい。国際電話も無線電話もなかった時代にインターネットの動画ニュースや電子書籍を予想している。さらに、ネット会議やメタバースまでイメージしていたとは。
さて、今回のテーマについての僕の回答は、
・残したいもの ネコとのまったりとした時間
・残したくないもの 大量生産―大量消費―大量廃棄の象徴としてのプラスチック