さくぶん道場 第174回

インター校生に求められる“学力”ってなんだろう 大谷雅憲

『文藝春秋オピニオン2023年の論点100』を読んでいたら、「日本人が世界で生き残るための『子育て』と『教育』」という文章に出会った。「大学進学説明会」で私が話す内容と重なるところが多いな、と思いながら読んでいると、筆者はサンウェイ大学の経営学部長でした。 インターナショナルスクールに通う全ての生徒に読んでほしいと思って、「さくぶん教室」「小論文準備クラス」「小論文演習クラス」「大学入試個別直前コース」の課題として取り上げました。今回はその授業のエッセンスを紹介します。

日本の教育の特徴

少子高齢化に伴う人口減少により、国内市場は今後縮小の一途をたどる。海外市場に活路を見いだすより他ない状況の中、グローバルに通用する人材も企業もなかなか輩出できないのが今の日本だ。

■根本的な原因のひとつが日本の教育システム

日本の教育は知識習得と自己鍛錬には効果的だが、情報化とグローバル化が進み、将来の予測が難しい現代社会にマッチしているとは言い難い。

渡辺幹 日本人が世界で生き残るための「子育て」と「教育」(文藝春秋オピニオン 2023年の論点100)

筆者は、日本の教育の特徴を「知識習得と自己鍛錬」と要約します。私は「答えのある問題を速く正確に解く力」と説明しています。

世界の教育の方向〜「4つのC

ではどのような教育が必要なのか? 全米教育協会は2014年にその回答として「4つのC」を提案した。それは、以下の4つを伸ばす教育だ。

  1. Communication (コミュニケーション)
  2. Collaboration (協働)
  3. Critical Thinking (批判的思考)
  4. Creativity (創造性)

最近の海外での教育は、4Cを謳っていなくとも、それに準ずる目標を掲げる学校が多い。 例えば国際バカロレア(IB)では、理想の学習者像として①探求する人、②知識のある人、③考える人、④コミュニケーションができる人、⑤信念を持つ人、⑥心を開く人、⑦思いやりのある人、⑧挑戦する人、⑨バランスの取れた人、⑩振り返りができる人、を挙げている。

渡辺幹 同上

世界の教育は「答えのない(わからない)問題に対して、知恵を出し合いながら協働して問題解決の道筋を作り出す」方向に向かっています。インターナショナルスクールでディベートやディスカッションをし、本や資料を元にレポートやエッセイを書き、商品の企画やデザインを考えるのはそのためですし、模擬国連やSDGsに力を入れるのも同じ考えからです。

不確実性の高い時代の教育

これらが4つのCをほぼカバーしていることはおわかりいただけるだろう。つまり世界の教育の多くは、この方向にシフトしている。 現在では、既存の考えや知識、価値観やキャリアパスなどが、急速に変わり、5年前にコロナを予測できなかったように、不確実性が高くなっているのが理由だ。このように不確実性の高い状況は「VUCA」と呼ばれ、近年のキーワードとなっている。 4CやIB学習者像は、そんな正解のわからない、予測しにくい状況を乗り越えるための能力として認識されている。

渡辺幹 同上

VUCAとは、V (Volatility:変動性),U(Uncertainty:不確実性), C (Complexity:複雑性), A (Ambiguity:曖昧性) の頭文字をとったもので、「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。現代はパラダイム・シフト(思考やシステムの枠組が変換する)時代です。安定した時代であれば、その時代の「正解」に向けてそれまでの知識と経験を使って「正解」にたどり着くことができました。しかし、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によるグローバル化の揺らぎ、気候変動への対応、AIや生命科学技術の驚異的なイノベーションなど、私たちの前には「答えのない問題」であふれています。新しい教育の形である「4つのC」。自分が受けている教育は何を目標としているのかを自覚してもらう機会として、この授業をしました。

日本の大学や高校が帰国生に求めるのも「4つのC」です。例えば一橋大学の面接ではこんな質問がありました。「日本の生徒はゼミなどで議論をするとき、あまり最初から自分の意見を言いませんが、どうしたらもっと活発に発言するようになると思いますか」「帰国生として、他の生徒たちにどのような影響を与えられると思いますか」

いずれの質問も「4つのC」で教育を受けてきた帰国生に対する期待の込められたものだということがわかるでしょう。