巻頭vol.3 2022年11月号
最近、「アート思考」に興味を持っています。きっかけは『教えない授業〜美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(鈴木有紀 英治出版)という本に出会って、作文教育との共通点の多さに驚いたからです。実際に作文教室で試してもみました。相性はバッチリです。次に出会ったのが『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(末永幸歩 ダイアモンド社)。そこで、「VUCAワールド」という言葉を知り、なぜ自分がアート思考に興味を持ったのか納得しました。
VUCAとは「Volatility(変動)」「uncertainty(不確実)」「complexity(複雑)」「ambiguity(曖昧)」の頭文字を組み合わせた造語で、「将来の予測が不可能な状況」「あらゆる変化の幅も速さも方向もバラバラで、世界の見通しがきかなくなったということ」を意味しています。2010年ごろから世界情勢を表す語として使われはじめました。私はこの状況について、生徒たちに「パラダイムの大転換が起きている」と説明しています(詳しくは「小論文演習クラス」の記事をご参照ください)。
「将来の予測が不可能な状況」とは「正解が誰にもわからない状況」のことです。そうした状況に対応する人間を育てるために教育のゴールも変化します。例えば、OECDの「ラーニングコンパス2030」では、①新たな価値を創造する力、②対立やジレンマに対処する力、③責任ある行動をとる力を教育の目標として挙げています。おそらく世界の教育もその方向に向かうでしょう。これを実現するために有効な思考法がアート思考です。アート思考とは、①「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、②「自分なりの答え」を生み出し、③それによって「新たな問い」を生み出す思考法です。そして、この思考法こそが、私が25歳の時に作文教育に見出した可能性だったのです。
所長 大谷雅憲
歯を一本抜きました。マレーシアにいる時から傾きはじめていて口内に痛みがあり、二十年来のお付き合いになるタマンデサの歯医者さんに相談すると、「日本人は歯を抜くのが嫌いでしょう。どうしましょうかね」と一緒に長らく思案していたのですが、日本の歯医者さんに行くと、「あ、これは抜いた方がいい」と即決。消毒用のうがいの後、麻酔を打たれてドキドキしはじめたと思った瞬間にオペは終わっていました。その間なんと5分。これまでの逡巡は何だったのかと思うほど、あっさりと歯はなくなりました。今は痛みがなくなって爽快です。振り返って考えてみると、どことなくありそうな日本人像に自分が勝手にハマっていたわけですね。「いや、痛いから抜いて」と頼めばマレーシアの歯医者さんの日本人観も刷新していたかもしれません。何ごとにも複数のパースペクティブは必要(大げさ!)と思ったことでした。
代表 佐々木真美