KLクナンガン*by KAYA & KAYAの母 特別編その2

*KL(Kuala Lumpur)追想の意

 地球の暮らし方ジョイント企画対話篇「遥かなるマレーシア、ボレ!」

去年の秋から東京のW大学に通って寮生活を送るKAYAさん(コラムA面担当者:娘)とオランダから一時帰国中のKAYAの母さん(コラムB面担当者:母)によるジョイント企画。好評につき、第二弾をお送りします。今回はマレーシアを離れて思う彼の地のこと。まさにタイトル通りの「KL追想」です。※は編集部による註
KAYAの母(B面担当者)

B面担当者(以下B):私たち家族とマレーシアとは駐在という社命に従ったご縁だったけど、私はマレーシア文化への興味が強かっただけに現地を離れて思い入れが妙に深くなっちゃう時がある。マレーシアに心が傾くほど、その気持ちを共感できる人がいないと感じるんだけど、あなたはどう?

KAYA(A面担当者)

A面担当者(以下A):その感じよく分かる。

KAYAの母(B面担当者)

B:マレーシアよりオランダの方がイイなっていう人の方が私の周りには多いし、そもそもあまり日本の外の文化に興味ない人が多いなと感じる、経済的な話には興味アリアリなのに。ある意味、日本もアメリカみたいに反知性主義状態なのかも。お金にはならなくてもある程度の教養が必要だと私は思うんだけど。

KAYA(A面担当者)

A:確かに実学指向が高いし、かなり極端な見方をすれば今の時代は医者も弁護士も会計士も富裕層の健康と権利と財産を管理して賃金をもらう仕事みたいになっちゃってるわけで、そういう意味では、理工や政経の学生が鬼単で苦労してる時に、楽単満載の文学や文構の学生がサークルにのめり込んで楽しむみたいなのも縮図かも。でも彼らが教養の塊って訳でもないんだよなー。

※鬼単:鬼のごとく単位取得が厳しい科目

KAYAの母(B面担当者)

B:誰かが日本の学生は哲学の学びが少ないって言ってたけど、IBDPのTOKも哲学的な部分もあったんだし、今あなたが興味とやる気ゼロと言ってるpublic philosophyの授業も専攻の土台として良い勉強なのではないかな? ただ土台が違う人との考え方の乖離の大きさには今後とまどうのかもしれないけど。まぁ学生の本分は勉学にあるべきで、ママは学生の時に学生としてもっと勉強しておくべきだったと今となっては心から思うね。鬼単に囲まれるのも青春なんじゃな〜い?

※IBDPのTOK:国際バカロレア・ディプロマコースの必修科目「知の理論/Theory of Knowledge」のこと

KAYA(A面担当者)

A:“ウェーイ学生”包囲網の中、第二言語で鬼単に臨む学生に対しての共感ゼロ当事者意識ゼロ発言やめてください。秒で一冊の難解本を読解できる頭脳、圧倒的な頭脳がマジで欲しい。

KAYAの母(B面担当者)

B:すいません……

KAYA(A面担当者)

A:最近とても思うのは太陽の位置とか日光の差し具合とか、気候の違いがこんなにも自分の気持ちを左右するものだということ。私は単純にマレーシアのあの気候がとても心地よくて懐かしい。切ないのは、これを絶対的に共感できる人がいないこと。

KAYAの母(B面担当者)

B:南国リゾートっぽい気候ってこと?

KAYA(A面担当者)

A:そういう旅行気分って事じゃないな、日常生活のことなんだよね。日本の夏の朝日は朝5時からまっすぐで容赦なく強い。でもマレーシアの朝日は朝5時から私たちを攻撃しないし7時半過ぎにようやく夜明けの余韻が払拭されていく、そして陽が沈めば涼しくなって日中の灼熱地獄から解放される。わずか2ヶ月ちょっとだったけど去年経験したオランダの夏は22時まで陽が沈まないけど朝は6時過ぎないと明るくならないし、そもそも攻撃してくるような日差しの強さがあまりない。

KAYAの母(B面担当者)

B:確かにそうだなぁ。私のちょい読み読書でも『Malay Sketches』 や『マレー蘭印紀行』にマレー半島の朝について魅力的に書かれてた。あなたもその魅力に気づいてたんだね、すごいじゃない!

KAYA(A面担当者)

A:早朝7時前の長袖が必要な涼しさの中のママックやコピティアムの空気、それを今ここで言葉を尽くして語ることはできるけど、あの心地よさは伝わらないんじゃないかな。陽が落ちて涼しくなってからのママックのにぎわい、これも刷り込まれるほどに経験しなければ分からない。あれは日本の太陽では作り出せないと思う。

※ママックやコピティアム:ママックはインド系イスラム教徒の経営するレストラン。コピティアムはローカルな食事メニューも提供するコーヒーショップ。どちらもマレーシア中にある

KAYAの母(B面担当者)

B:朝寝坊ばかりのあなたが早朝からママックに行きたがってたのはそういう理由があったんだ、今わかった。早朝ママックでロティを食べ、帰宅後シーリングファンの風の下でウトウトするのは私も至福だったわ。

←※ロティ:インド式の平たいパン

※シーリングファン:天井から吊るす扇風機→

KAYA(A面担当者)

A:24時間エアコン生活は私には無理。寮の部屋に窓を開けて外の空気を取り込みたいんだけどエアコンだけで暮らしてる人も多いみたいなんだよ。外気を取り入れるには空気の入り口と出口がないと空気の通り道が確保されないから、私は窓とドアを開けてるんだけどそういう人はほとんどいないね。

KAYAの母(B面担当者)

B:あなたの里山的発想って超日本人的じゃない?大袈裟に言うと人間が自然を征服するんじゃなくて自然と人間が共生するみたいな感じ? そもそもママックなんて屋根しかないんだから外気100%、リラックスできるはずよね。

KAYA(A面担当者)

A:外気100%はオランダのカフェも同じだったけど、なんか微妙に違うんだよ。

KAYAの母(B面担当者)

B:はい悲しいくらい物価も違いますよ。カフェでのお茶の値段が、€10とRM10って同じ10だけど、ざっくり円換算すると 1600円(=€10) と350円(=RM10)。オランダ生活当初の支払い時に€10なんて安いわねと勘違いしてた自分がおそろしい。経済的・距離的・日常生活の自由度、駐在員帯同家族にとってKLほど恵まれた土地はないのではないかな。

KAYA(A面担当者)

A:かもね。路線バスでママックに通う日本人高校生なんて私は変わり者だったし、とにかくあのマレーシアの早朝のママックの空気感を共有できる日本人にはなかなか巡り会えないだろうな。学校のある日はちょっと薄暗くて肌寒い空気の早朝に裏起毛のフーディーを着込んでスクールバスに乗りこみウトウトしながら車窓のママックをうらやましく眺めた、あれもイイ思い出なのかもしれない。

KAYAの母(B面担当者)

B:知り過ぎた女だね。それは他の誰も真似できないあなただけの貴重な宝物として大事にしてください。

数日後のBのぼやき:ひょんなことから、動物には昼行性・夜行性の他に薄明薄暮性(明け方と夕方に活発に活動する)という分類があるのを知りました。もしかしてウチの子は薄明薄暮性なのかしら。