KLクナンガン*by KAYA & KAYAの母 特別編
*KL(Kuala Lumpur)追想の意
地球の暮らし方A面B面ジョイント企画・対話篇「娘の語りと母のぼやき」
ACT通信のコラボレーションコラムA面担当のKAYAさんはマレーシア・クアラルンプールのインターナショナルスクールを卒業して、去年の秋から東京のW大学に通っています。B面担当のKAYAの母さんは現在オランダ・アムステルダムに滞在中。先ごろ日本に一時帰国した際に母娘の間で交わされた会話を再構成してお届けします。W大生の赤裸々な実態が見えてくるような、こないような…。
※は編集部による註です

B面担当者(以下B):(テレビを見ながら)あれ? このダンスと服ってケンドリック・ラマーのハーフタイムショーをパクってない?

A面担当者(以下A):ママ、パクるってガラ悪い、インスパイア。でもあれは素晴らしかった。お祭り騒ぎじゃなくてメッセージの塊。それにあのジーンズとスニーカーも完璧だった。
※ケンドリック・ラマー(Kendric Lamar): アメリカのミュージシャン(ラッパー)今年のNFLスーパーボウルのハーフタイムショーのメインパフォーマーを務めた


B:おばさんが見てもなんとなくケンちゃんに知性感じるんだけど、そうなの?

A:あーそんな感じだね。

B:ところで春期が始まってどう?

A:前期はとりあえずフル単だったけど、W大には中退一流留年二流卒業三流フル単四流って言葉が未だにあるよ。九月入学してから8ヶ月、一般入試の学生と半年ズレてるからサークル内だと1.5年生って感じの時もあり、自己紹介が複雑で面倒なのでインカレで他大学と混ざる場合は一浪で4月入学の謎の新入生のふりをする時もある。そもそもEDP(英語学位プログラム)の存在を知らない学生が同じ学内にすらいる。
※フル単:めいっぱい単位を取得すること

B:学生生活及びサークルには慣れた?

A:これからって感じ。ウェ〜イなサークルにも面接受かって一応入会したけど、ウェ〜イ系は何やりたいかよりも所属することがステータスって感じもちょっとある。スキーも来シーズンはサークルでもガッツリ滑るつもりだから冬は忙しくなりそう。

B:♪なんだかんだ叫んだってやりたいことはやるベーきです♪って歌があったな、昔。

A:でもね、スキーサークルのトレーニング後の集まりで、暇な四年生のひとりがフラッと来て特に盛り上げるわけでもなくただ食べて飲んで喋って終電逃して快活CLUBに向かう姿を見てなんかいいなと思ったんだよね。このサークルにはこの人の居場所があるんだなって。気の利いた行動も発言もしなくていい、ただいるだけでイイ居場所を持ってるなんて最高だなって。
※快活CLUB:24時間営業のネットカフェ

B:なんかいい話だな、ちょっと違うけどマレーシアのママックにも”あせらない媚びない威張らない”って感じの空気があった。昔っからあなたそういうの好きよね。だけど快活CLUBって噂には聞いていたけど繁盛しているんだ、っていうかそれってあなたも終電後にぶらついてるってことだよね。

A:たいていの場所から寮までは近いから徒歩で帰れる。学住近接、時間を有効に使うには最高なはずなんだけど……

B:寮生活は楽しそうだよね。

A:まあね。一限と五限の間に授業がなかったら寝に帰れるのもいいよ。だけど先週のある日の夜中やっと勉強が終わって寝ようとしてたところに、友達が突然私の部屋のドアを開けてズカズカ入り込んできて勝手に大きな声で私には関係ないことを愚痴り始めたんで怒った! ノックぐらいしろって、親しき中にも礼儀あり、今後は鍵かけて寝ることにした。

B:いろいろあるんだね、まあそれも一つの社会勉強かな。ところで肝心の勉強はどう?

A:複数兼サーしてるし勉強の時間を確保するのが課題。私の学部はただでさえほとんど必修で埋まるのにEDPの授業は評価も厳しい。成績を上げるために他学部の楽勝単位を取る作戦が出来ないのには憤ってる。
※兼サー:サークルにいくつか入っていること、兼部

B:不公平感あるなぁ。フル単すら厳しい学部と楽勝単位ばかりの学部と一緒くたにされるのってなんだかなぁ。

A:そうだけど結局は個人だと思う。素晴らしく優秀な学生も多いし、W大は特に玉石混交でジョブズが引用したstay hungry stay foolishの世界線も感じられる。そこが魅力でもあるし。それにEDPの学生は世間で言われているような遊びメインな日本の大学生のイメージとは違うと思う。さらに政経はいわゆる“私大文系”だけど、数学が出来ないとマジで辛い、数学得意でヨカッタよ〜。

B:羨ましいな、私は論理的思考を鍛える数学が苦手だったからどうしてもぼやきになっちゃうのよね。英語での授業はどう?やっぱり母語である日本語の方が楽なのかな?

A:当たり前だよ、周囲はほぼほぼ義務教育全般を英語で過ごしてきた学生ばかりだから、その英語力ハンデは大きいよ。入学当初は4月入学の標準的な大学生活の方が楽しいと思ったこともあったけど最近は心境の変化もある。やっぱり英語力で発信出来ることの大きさも感じざるを得ない。
英語力だけ高く日本文化にも興味ない外国人学生が、温室育ちの日本人が良しとする「誰もが平等」というスタンスを逆手にとってその恩恵だけを奪っていくことには違和感がある。EDP入試は多国籍な学生による留学生試験のようなものだったからこそ、私にとっては実感であり切実なのかもしれない。この違和感は日本語で発信しても説得力がなく英語で発信することがベストなんだろうし。

B:日本は歴史上初めて本土内での移民や外国籍住民との国を挙げての共生問題にぶち当たってるんじゃないかなぁ。そういう意味ではブミプトラ政策を支持できる?

A:出た、ママの単純思考。物事は複雑だからもっとよく考えないといけないよ。

B:マレー語にはkami=あなたを含まない私たち、kita=あなたを含む私たち、と言う単語が存在しているし、キリスト教徒やイスラム教徒に存在してる異教徒とか異端って概念も薄い日本人って将来生存厳しくない? 植物だってニホンタンポポ(在来種)はセイヨウタンポポ(外来種)の繁殖によって絶滅危惧種なんだよ。人口も減少し経済力も弱くなり日本文化が衰退して消滅したとしても、日本はそこまでだったってことじゃないかってパパが言ってたけど、諸行無常の響きありってとこかな。

A:パパ厳し過ぎる、私は日本文化が無くなってほしくないし、そのためにはある程度の国としての経済力や政策が必要だとは思う。日本のこの状況は現地日本にいなければ感じ得ないし、EDPの学生として勉強することは日本を俯瞰できると思うと悪くないと思ってる。自分にとってはわざわざ母国で第二言語で勉強するって大変だけどね。日本は自国語で様々な分野のハイレベルな勉強ができる希少な国だっていうのに。

B:そうだね、明治維新以来の追いつけ追い越せという西洋文明信仰の時代は終わって新しい時代を担うって前例のない世代だもんね、”狭き門より入れ、滅びに至る門は大きくその道は広い”ってとこか。そういえば第二外国語でマレー語を取ったんだって?

A:マレー語面白いよ〜。週2回もあるのに取得単位少ないんだけどクラスの雰囲気も良くてホント取ってよかった。マレー人のおばさん先生なんだけど、手作りナシレマをみんなに食べさせてくれたよ、ホームメイドのナシレマのあまりの美味しさに感動した。

B:うらやましいな。ところで客として訪れたマレーシア料理店でバイトにスカウトされた話はどうなったの?

A:今のところ保留にしてもらってます。

B:マレー語を頑張って勉強して”私をマレーシアに連れてって!”(ガチスキークラブの大先輩メンバーから映画”私をスキーに連れてって”の話をA面担当者は散々聞かされたらしい。大学の勉強も大事だけど社会勉強も大事だよ、ありがたいありがたい。)