さくぶん道場 第190回 大谷雅憲
2024年、私の10大ニュース
作文・小論文の日本語系クラスの一年最後の授業は、その年の「私にとっての10大ニュース」を作ることになっている。日本や世界で起きた事件、流行したもの、話題になったものについて話し合いながら、自分がこの1年間に、感じ・考え・経験したことを言語化することで「記憶」として定着させて欲しいという思いからだ。国内のニュースランキングを見ながら、2024年を振り返ってみたい。
国内の10大ニュース(読売新聞)
1位 石川・能登で震度7
2024年は1月1日の能登地震のニュースから始まった。翌2日には【8位】「日航機・海保機 羽田で衝突」。事故にあった海保機は能登地震の支援物資を運ぶ予定だった。連日の大ニュースとSNSで飛び交う真偽不明の情報に混乱した一年の始まりだった。1年が過ぎた今でも、復旧からほど遠くライフラインすら回復していないところがあると聞いて、日本の災害復興政策に何か大きな変化が起きているのではないかと疑ってしまう。阪神淡路大震災で「被災地の回復から復興へ」の流れができ、東日本大震災でその方向が確立されたように思えたのだけれど。
2位 大谷翔平 初の「50-50」
TVニュースランキング(放送時間)でダントツの1位だった。テレビを付けると必ず話題になるだけでなく、町を歩いていてもどこかで目にするほどだった。野球に興味のない人でも知らない人はいないほどに、日本中は「ショーヘイ・オータニ」に覆われた一年だった。「日本人」のアイコンを超えて一気に「宇宙人」「ユニコーン」になってしまったが、あんな日本人、これまで見たことも想像したこともなかったのだから、しかたない。
3位 パリ五輪メダル 日本45個
「あまり見ていない」というのが生徒に共通した反応だった。
4位 新紙幣 20年ぶり
人並み以上に歴史に興味のある僕でも、新紙幣に選ばれた人物にそれほど親近感がないので、生徒たちが「名前を聞いたことがある」程度の認識なのは致し方ないと思う。新紙幣のニュースよりも、コロナ禍以降、日本が一気にキャッシュレス社会に移行したことのほうが「事件」だと、僕は感じている。
5位 闇バイト強盗 続発
「治安のいい安心安全社会」という、これまでの日本社会のイメージが崩れ落ちている感じがリアルにする。テレビのCMではメガバンク系列のローン会社が若者を対象に高利での借金を勧めてくるし、あきらかに詐欺だとわかる電話やメールの対応にうんざりする。怪しい戸別訪問営業も時折来るので、さすがに対策を考えるようになった。
6位 衆院選 与党過半数割れ / 7位 自民党総裁に石破氏
この2つの結果に加え、米トランプ政権の誕生によって、2025年は激動の時代になるのは間違いなさそうだ。日本ではすでにホンダと日産(三菱自工)の経営統合、アメリカではUSスチールの去就が取り沙汰されている。両国を象徴する産業の基盤が動き出した。そこにも「政治」が大きく関与しそうだ。
9位 ノーベル平和賞 日本被団協が受賞
今年は「戦後80年」。10歳の時に終戦を迎えた人が90歳になる。あと10年すれば戦争を経験した人たちの生の声を聞く機会がほとんどなくなってしまうだろう。実際に軍人として戦った人となるとあと5年といったところか。被団協がノーベル平和賞を受賞したということは被曝体験を世界に発信する最後の機会だったと言えるかもしれない。高校生のグループが同行したのを見て、若い世代にバトンが繋がる希望を感じた。
10位 「紅麹」サプリで健康被害
昼間のテレビCMは健康食品と老化防止であふれている。中でも機能性表示食品は2015年にできた新しいジャンルで、「事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品」のこと。「事業者の責任」ということは国の審査は不要になったということだ。日本の製薬会社は、コロナのような研究費と時間がかかるものではなく、食品会社も含めて、健康食品と機能性表示食品にシフトしたのだろうか。
その他の出来事
「2024年TVニュースランキング(総合)」を見ると、「台風7号お盆休み後半を直撃」「台風10号異例の迷走」「記録的猛暑 過去最多の真夏日に」がランキングされていた。地球温暖化は北緯30〜40度の地域に最も大きな影響を与えている。偏西風の蛇行や、海水温の上昇などにより、日本では超巨大台風の発生やゲリラ豪雨、冬の豪雪、野菜や米の高騰、魚介類の種類と漁獲量の変化など、地球温暖化の影響を実感するようになった。最高気温が35℃以上の猛暑日が福岡県の太宰府では62日、30℃を超える真夏日は東京都でも82日を数えた。
そうした影響もあってか、僕にとっての2024年は季節の移り変わりに興味を持った一年になった。家の近くにやってくる鳥や、近所に生えている野草の名前を知りたくて、デジカメを購入した。近くに地元の食材を扱う市場がいくつかあるので、旬の魚や野菜、果物を楽しむこともできた。日帰りのドライブも楽しんだ。
改めてこの一年を振り返って感じるのは、「一年の半分近くが夏で、春と秋はあっという間に過ぎ去り、冬は寒い」というのが実感だった。子どもの頃に経験したバランスのいい四季はもう戻ってこないのかと、年寄りじみた感傷に浸りたくなる。一方で、あらゆる分野でパラダイム・シフトが起きていて、これまでの価値観や常識が通用しなくなってきていることにワクワクしている自分もいる。