巻頭vol.18 2024年2月号
先月の巻頭の続きになりますが、日本の大衆音楽の源流への旅はいつの間にか方向転換して、日本映画ぶらり散策の旅になりました。きっかけは、高峰秀子の『わたしの渡世日記』(文春文庫)です。5歳から活躍する日本を代表する女優だということは知っていましたが、想像を絶する人生を、それでいて背筋が伸びる生き方に、凛とした読後感が残る作品でした。ここまで赤裸々に書くことによって、逆に書かなかったことで隠した「真実」があるのではないか。この疑問がきっかけになって高峰秀子の映画を見るようになりました。
演出助手だった黒澤明と出会った 「馬」(1941年 監督:山本嘉次郎)を手始めに、「銀座カンカン娘」(1949年)「カルメン故郷に帰る」(1951年)「二十四の瞳」 (1954 年)を立て続けに鑑賞しました。ちなみに、「カルメン〜」は日本初の長編カラー映画。高峰秀子は、作品によってイメージががらりと変わります。
このあたりから、映画鑑賞は目的地のない気ままな旅になります。黒澤監督と三船敏郎が初めて組んだ「酔いどれ天使」(1948年)。ついで、学生運動の火が消えた後の、70年代の京都にあった閉塞感をそのままフィルムに閉じ込めたような「ヒポクラテスたち」(1980年)は、80年に大学生活を始めた私にとっても既視感のある作品でした。さらに大きく道を外れて、「ラ・ラ・ランド」(2016年)「女王陛下のお気に入り」(2018 年)の両方に出演しているエマ・ストーンの魅力にハマりました。 「ラ・ラ・ランド」は、「21世紀の笠置シヅ子と服部良一の物語」でした。今年のテーマは、これまで興味を持ってきた作品(点)を、線や面で捉え直す作業になりそうです。
所長 大谷雅憲
大学の志望理由書では、「あなたが解決したいと考える地球規模の課題(グローバルイシュー)は何か?」的なことを多くの大学・学部で問うてきます。国連SDGsから考えても、貧富の格差や気候変動、自然環境の悪化、国家間や地域での紛争など、課題は山積みで、そんな難題を十代の若者に押し付けてどうするよと言いたくもなりますが、ここまで負の遺産を積み上げてしまった大人としては、これからの世代にコミットしてもらうことでしか良い方向には進めないと認めるがゆえの問いかけなのでしょう。
とはいえ、お先真っ暗な未来図を提示して嘆くばかりなのも無責任な話。そもそも私の生きてきた年月は世界を悪い方向に進めるためだけに費やされたのか?と振り返ってみたくなりました。で、考えてみたところ…
- 第三次世界大戦は起きていない(第一次大戦後、約20年で第二次大戦が勃発。その後は今日まで80年近く世界大戦は起こっていない)
- 核兵器は戦争で使用されていない(1945年8月9日に長崎に使用されたのが最後)
- 日本国内では公害を減らす取り組みが前進した(市街地の河川は昭和より明らかにきれい)
- 韓流ブームで日本国内での韓国のイメージがポジティブに定着(私の学生時代はまだまだネガティブ。留学したら変人がられた)
こうした成果も、そのために動いた人たちがいたからこそ。現実から目をそらさず、かといって悲観するのでもなく、歴史も未来も、つくるのは自分たち自身だということを伝えていかんとな、と思うのでした。
代表 佐々木真美