巻頭 vol.14 2023年10月号
杭州アジア大会、ラグビーW杯、バレーボールW杯とスポーツのビッグイベントがテレビで放映されていて、どの大会の競技なのか混乱しながら日本代表を応援しています。
陸上女子5千mはゴール前で廣中選手がインドの選手に抜かれて惜しくも銀メダル。逆に銀でも卓球女子シングルスの早田選手や、バスケ女子の健闘は素晴らしいものがありました。レスリングフリースタイル女子の藤波選手も凄かった。「霊長類最強女子」と呼ばれていた吉田沙保里さんの連勝記録を超えて130連勝で金。中学生のときから負けなしの驚異の19歳です。難病から復活したバタフライ50m女子の池江選手が銅メダルを取った後、ライバルの中国選手と涙で抱き合う姿は、スポーツならではの美しいシーンでした。
驚いたのはサッカー男女です。他の国はU24+オーバーエイジ枠3人で代表を組んでいたのに、日本代表はU22のみ。要するに1.5軍の中に大学生中心の3軍寄せ集めチームが紛れ込んだようなもの。それで、男子が銀、女子は金という快挙を成し遂げました。バスケットボールやバレーボールにしても、平均身長が10cm以上高い相手にスピードやテクニックだけでなくパワーでも負けない試合に驚きました。
少し話は逸れますが、阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝をしました。2軍に落ちた森下選手を広島カープ二軍の由宇球場まで応援に行ったので、彼の夏以降の活躍とともにリーグ優勝は格別なものでした。大谷選手も凄かったですね。打者としては打率.304・44HR・20盗塁、投手としては10勝5敗。日本人選手がパワーで勝るホームラン王になることだけでも信じられないのに、それを成し遂げたのがエースピッチャーなのですから。
というわけで、今年の日本のスポーツを見て、僕が感じたキーワードは「パワー」でした。
所長 大谷雅憲
十月になりました。冬からの出願を控えて、いわゆるグローバル入試に挑む大学受験生は本格的に準備にとりかかる時期です。その提出書類の一つ、英文志望理由書の作成サポートを行う際、私が大切に考えているのは、「その文章から本人の声が聞こえるか」ということ。
ネットから借りてきたことばや自分が納得できていないことばで文章を固めてはいないかを確認していきます。なぜなら書かれたものはその人そのものであると見なされるし、また事実そうなってしまうからです。そこに借り物のことばが混じると、自分の中に「ごまかし」を抱え込むことにもなりかねません。
今年七月に他界したチェコスロバキア出身の亡命作家ミラン・クンデラが次のようなことを言っていました(出典が曖昧なため要約で引用します)。「学生時代に軽い気持ちで書いた文章が、後に国の政治体制が変わったときに、蒸し返されて罪に問われることさえある。文章を書くという営みには、それだけの覚悟が求められるものだ」
国家の体制が変わる場合だけでなく、時代によっても価値観は大きく変わります。2021年の東京オリンピックの開会直前、20年以上前にホロコーストを揶揄したコントを若手お笑い芸人として演じたショーディレクターがその件によって辞任に追い込まれたのも同じく、表現に対する責任が問われたのです。
大学に入るために書いた多少美化したものであったとしても、自分の文章にプライドが持てること。そんな志望理由書ができれば、この先の本人の支えにもなるのではないかと思います。
代表 佐々木真美