さくぶん道場 第179回 大谷雅憲
「日本にあるオンリーワンを世界に発信する方法」
2023年にコロンビア大学の理事に就任し、ハーバード大学の面接官も務めている社会起業家・慈善事業家の花沢菊香氏が、日本の生徒や保護者を対象にしたインタビュー記事を読んだ。アメリカの名門大学の運営や受験生の面接に直接に関わる人が日本の教育に何を期待しているのか。また、ご本人がどのような人格形成をしてきたのか。興味深い記事だったので、「小論文演習クラス」と「さくぶん教室」で取り上げた。引用元の記事は、「コロンビア大理事・ハーバード大面接官の日本人女性が今、日本の親子に伝えたいこと(リセマム)」。
文科省が2020年から実施している新しい学習指導要領に基づいて小学校から英語やプログラミング、思考力や創造力などを育むための探究学習が始まった。ACT通信では「正解のある問題を速く正確に解く教育」から「正解のない問題を協同しながら探求する教育」への移行という説明をしてきた。日本が教育の分野でグローバルスタンダードに照準を合わせたということなのだが、なぜそこに「英語」と「プログラミング」を潜り込ませたのか花沢氏は疑問に感じる。
『グローバルに活躍できる人材を育てる』という目的で英語やプログラミング教育に注力しても、残念ながら世界で勝てる競争力をもてるかは疑問です。私はハーバード大学の入試面接官をしていますが、中国や韓国、インドなどアジア系の生徒の英語力や理数系のコンテストの成績は、一部の天才を除いては日本人の生徒は正面から競争しても太刀打ちできないのが現実かもしれません。そもそも現場の先生方自身も経験が浅く、不慣れなことを無理強いしてまで、全国津々浦々の学校で英語やプログラミング分野の教育を徹底させる必要はないのではないでしょうか
「英語」や「プログラミング」などの手段よりも「探求する」ことの方にグローバル教育の本質があると考える花沢氏は、「日本にすでにある、世界をリードする『オンリーワン』のコンテンツを探すこと。その魅力に気付かせる教育」の重要性を説く。日本にいると当たり前で気付きにくいものが、海外では革新的に映ることがある。
『これをやっておかないと将来困るから』という理由で、すでに競争の激しい分野で戦おうとするのではなく、競争のない分野で一番になることの方がこれからの時代重要ではないでしょうか。
これが花沢氏の提言だ。
「さくぶん教室」ではこの提言をもとにして「日本にあるオンリーワンを世界に発信する方法」を考えた。「小論文演習クラス」では、花沢氏の人格形成にも目を向けることにした。
中学のときに父親の会社が倒産し、通っていた私立中学をやめて、公立高校に進学しながら生活費をアルバイトで稼ぐ暮らしが始まる。希望する大学に合格できなかったが、コロンビア大学の語学学校がやっているサマーセミナーを経て、コロンビア大学に進学。学費を稼ぐためにやったファッション関係のアルバイトが成功して、ハーバードビジネススクールに進学した。彼女の中で一貫してあった柱は、「貧困を含む社会の問題を解決するために何ができるか」であることがわかる。
帰国生入試では、志望理由書だけでなく、面接や小論文でも「あなたは何をやりたいのか(あなたは世界とどう関わっていきたいのか)」が問われる。漠然としたものでいいから自分の「柱」を高校生の間に見つけることができるか。難しいことだと思うけれど、帰国生入試ではそれが問われることが花沢氏の記事を読んでいて改めて理解できた。