巻頭vol.13 2023年9月号

仕事柄、盆正月は講習会の時期に当たるため、「夏休み」や「冬休み」を実感することはあまりなく、まして長いマレーシア生活で季節感もぼんやりしたものになっていたようです。それが、今年は一気に夏休みモードに突入してしまいました。

先月号の巻頭で書いた小旅行は、しまなみ街道以西の瀬戸内海沿岸一周をドライブしました。これで調子に乗って、スパ羅漢(廿日市にある道の駅です)から足を伸ばして山奥の美術館で「猫まみれ展」を鑑賞したり、島根県浜田市の海洋館で白イルカやペンギンと戯れた帰りに六日市温泉(こちらは島根県の道の駅です)に入ったり。もれなく温泉がセットになっているのは偶然です。

夏休みの自由研究もしました。「ミズクラゲ・オワンクラゲ・クリオネ鑑賞セット」を発見。クリオネは北極海の生物なので常温で育つのか疑問がよぎりましたが誘惑に負けて購入。フェイクだと理解するまで一週間、いつ生まれてくるのかワクワクしながらミニ水槽を舐めるように探す一週間を過ごすことができました。ヒマワリも育てました。小学生のとき以来です。僕の知っているヒマワリは、夏の最中に一本の茎に大きな花がすくっと立っているイメージです。しかし、一本の茎から6本の枝が分かれ、9月の中旬になってもまだまだ成長を続けるヒマワリの草むらのようなものが庭に鎮座しています。

還暦を過ぎると二周目の人生が始まるといわれます。それに従うと僕はみずみずしい赤ちゃんということになります。そのせいかどうかはわかりませんが、動物や昆虫、植物など、自然の移ろいに敏感になったような気がします。

所長 大谷雅憲

『手の倫理』(伊藤亜紗著:講談社)という本の中に「信頼」と「安心」について考察した一節があります。著者は大学の教員なのですが、ある打ち上げの席で一人の女子学生がやたらと自宅の門限を気にしている姿に目を止めます。聞けば、この生徒の親は彼女の居場所をGPSで把握しており、現在位置からすると門限に間に合わないからそろそろ退席するようにと電話をしてきているとのこと。「子供を心配する親の気持ちは痛いほどわかる」としながらも、著者は複雑な心境に陥ります。確かに親にとっては安心にちがいないが、そこに信頼はない。ある局面では自分の不安を抑えて、やらせてみること=信頼することが必要なのではないか、と。

これは子育てに限った話ではなく、人間関係全般に言えることだと感じました。物事を進めていく際には、なるべく想定外のことが起きないように準備し、状況をコントロールするのは当然必要なことです。ただ、それが自分の安心のためだけになってはいないだろうか。「あなたのため」と言いながら、相手から主体性を奪っていはしないか。晩年、認知症を患った老親を思い出しながら、そんなことを考えました。リスクを回避するために全方位に神経を張り巡らせる生き方と、相手を信頼して任せ、もし結果が思わしくなかったら次の手を考える生き方ーーどちらも同じ大変さなら、後者を選べる余裕が自分にあればいいなと思います。

代表 佐々木真美